むち打ち症・頸椎症(けいついしょう)で14級に認定される方法

 

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交通事故の多くは、「むち打ち」に関するトラブルです。現在でも交通事故による軽傷者のうち、むち打ちに該当する頚部受傷者の割合は約60%で最も多く発症しているのが現状です。その治療と損害賠償をめぐってしばしばトラブルが発生します。

むち打ち症の原因は、主に自動車の追突、衝突、急停車等によって首がむちのようにしなったためにおこる骨折や脱臼を伴わない頭頸部症状を訴えているものをいいます。むち打ち症は、正式な傷病名ではなく、医師による診断名は、「頸推捻挫」「頸部捻挫」「頸部挫傷」外傷性頸部症候群」などと呼ばれます。交通事故で、むち打ち症状を引き起こす原因は、9割が追突事故といわれ、正面・側面・後方からの追突の3つに分類されます。

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むち打ちの特徴

むち打ち症と他の外傷との大きな違いは、むち打ち症では多くの場合、自律神経症状を伴う点です。

一般的な外傷では、通常自律神経症状は伴うことはありません。むち打ち症は、追突のような単純な受傷機転によって発症しますが、説明しがたい症状が出現するのは自律神経が関与するためです。

 

むち打ちの発症時期

受傷後すぐに発症するだけではなく、1~2日してから症状が増悪する場合もあります。とくに、受傷直後に頭がボーとしている場合は、受傷直後は痛みをあまり訴えませんが、頭がはっきりしてくると痛みを強く訴える場合があります。

一般の外傷は、受傷直後から痛みが出現しますが、むち打ち症の場合は、自律神経が症状発現に関係しますから、遅れて症状が現れることがあります。受傷直後には症状が出なくても、1週間以内は症状が出ることがありますからこの間は安静が必要です。

また、受傷後1週間過ぎてから症状が現れることはほとんどありません。

 

よくあるむち打ち症の症状は

首・肩の痛み・頭痛・吐き気・めまい・肩こり・疲れやすい・体がだるい・圧迫感などの症状が見られます。

 

診断の難しさ

診断のために首のレントゲン写真を取りますが、むち打ち症の場合、レントゲン写真には異常は認めません。また、MRIを撮っても異常所見は認めません。この理由は、頚椎椎間板ヘルニアの突出する量が少ないために、画像に捉えられないのです。レントゲン写真やMRI検査に異常所見が現れないことが、むち打ち症の診断と治療を難しくしています。

レントゲン(正常)
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レントゲン※MRIは寝た状態で撮影している。
頚椎6番の椎間板が少し突出しヘルニア気味です。
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むちうちの治療方法

むち打ち症が疑われたら、まず頸部の安静が重要です。
むち打ち症の場合、医師の診断と治療は、被害者の身体の診察と、訴えを基にして行います。レントゲン写真やMRI検査に通常異常所見を認めませんから、治りが悪い場合は、むち打ち症についての十分な医学的知識のある医師に診てもらうことが必要です。

 

むち打ちの分類と症状について

むち打ちの損傷には、いろいろな状態があります。ひとまとめに述べることはできませんが通常次の4型で分類することができます。

○頸推捻挫型

頸推の周りの筋肉や靭帯、軟部組織の過伸長や部分的断裂で最も多くみられ、首の後ろや肩の痛みは、首を伸ばすと強くなります、首や肩の動きが制限されることもあります。むち打ち症の70~80%を占めているとされています。1ヶ月半~3ヶ月以内に治癒することが一般的です。首の周辺の痛みや違和感などの症状が出ます。

 

○神経根症型

脊髄から抹消神経である神経根が枝分かれをし、それが、肩を通じて指先まで神経が届いています。交通事故の場合、頸推の過屈曲による頸神経の損傷、歪みが出ると神経が圧迫され症状がでます。首の痛み、腕の痛みやしびれ、だるさ、後頭部の痛み、顔面痛、筋力低下などの症状が出ます。咳やくしゃみをしたり、首を横に曲げたり、回したときに強まります。後遺障害と認定されるむち打ち症は、この型が多いです。

 

○バレ・リュー症候群(交感神経損傷型)

自律神経には、交感神経と副交感神経があり、交感神経が頸椎の前側の左右両側面を走っており、頸椎から伸びている神経根につながり、互いに連絡しあっています。事故により神経根に障害がおきたため、交感神経まで影響を受けたり、頚部に出血、浮腫が発生、直接交感神経を圧迫し、交感神経は、顔や上肢に流れる動脈の拡張・収縮の役割を担当していますので、交感神経がおかしくなれば、血行障害がおきてしまいます。めまい、頭痛、耳鳴り、目のかすみ、吐き気、倦怠感、などの症状が現れると考えられます。

 

○脊髄症状型

頸椎捻挫の衝撃で、頸椎の脊柱管を通る脊髄が傷ついて、下肢に伸びている神経が損傷され、下肢のしびれ、知覚異常がおこり、運動障害、知覚障害、歩行障害、腱反射の異常、排尿障害、排便障害等が現れるようになります。

 

○脳髄液減少症型

くも膜に裂け目なりができて、脳髄液が減少してしまうことです。症状はきわめて多彩で、起立性頭痛、全身倦怠感、めまい、吐き気、疼痛、脳神経症状、自立神経症状、内分泌異常、免疫異常、睡眠障害等があります。これらの症状には特徴がみられ、気圧の変化で症状が変化します。

※脳脊髄液とは、側脳室、第3脳室、第4脳室の脈絡叢という血管から作られ、くも膜下腔を循環していて、神経に栄養を与えたり脳や脊髄を衝撃から守る役割をしています。

以上のように、むち打ち症といっても、症状、病態によって様々です。衝撃の程度、交通事故の発生の予見等により、けがの程度や症状は異なります。
上記のような症状が2ヶ月経過しても継続する場合は、ご相談下さい。自賠責でいう後遺障害認定の可能性が出てきます。

 

 

むち打ち症で後遺障害認定を受けるための4つのポイント

 

むち打ち症の後遺障害認定基準は?

むち打ち症の後遺障害としては、次のどれかに当てはまることになります。

第7級4号 神経系統の機能または、精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服する事ができないもの
第9級10号 神経系統の機能または、精神に障害を残し、服する事ができる労務が相当な程度に限定されるもの
第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
第14級9号 局部に神経症状を残すもの

第7級と第9級の後遺障害については、事故における衝撃が他覚的な所見が認められるようなむち打ち症に限られます。
第12級「症状が神経額的検査結果や画像所見などの他覚的所見により、医学的に証明できるもの」
第14級「受傷時の状態や治療の経過などにから連続性・一貫性が認められ、説明可能な症状であり、単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるもの」と規定されており、一般的なむち打ち症の事案においては、第12級か第14級とされます。

むち打ち症の痛みは原因がはっきりせず、第三者から、理解されにくいことと、レントゲンにも写りにくい症状であるため、後遺障害の等級を認定されないケースも、けっして珍しいことではありません。

 

どのようにすれば第14級9号に認定を受けられるか?

➀因果関係及び受傷状況 ➁通院状況 ➂症状の一貫性・連続性 ④他覚的所見の有無などの条件が揃えば認定されることになりますが、条件の揃え方については公表されていないため、症状が重い場合でも認定されないこともあります。

➀因果関係及び受傷状況

まず因果関係について、交通事故による傷害であること、傷害を受ける程度の事故であったこと、傷害が原因の後遺障害であることを証明する必要があります。交通事故による傷害であるかどうかは、診断書に後遺障害の原因である傷病名が記載されているかによって判断されます。そのためにも、むち打ちに詳しい専門の病院で診断を受けましょう。

➁適切な頻度で病院へ通院

具体的な通院・入院日数が提示されているわけではありませんが、受傷してからの期間にあわせて、適切な頻度で通院をする必要があります。被害者の方の通院回数が多いほど、症状の深刻さが見えるとの判断から、認定を受けられる可能性が高くなる傾向があります。

➂症状の一貫性・永続性

受傷直後から症状固定まで、症状が一貫・連続性があることが必要です。むち打ちなどの神経症状は事故直後の自覚症状が一番強く感じ、治療を経て症状が緩和されていくにが一般的です。

事故後、一定の時間経過後も治癒に至らず、症状が緩和されていなければ、事故との因果関係が認められ後遺障害認定に至るのが、自賠責調査事務所の基本的な流れになります。カルテ等に記載のないものは症状がないものとみなされてしまいますので、カルテに記載してもらうことが大切です。医者に対し症状の変化を正確に伝えることが大切です。

➃他覚的所見の有無

他覚所見とは、医師など患者以外の人が客観的に捉えることのできる症状のことです。反対に患者本人が感じる症状を自覚症状といいます。典型的にはレントゲン・MRIなどの画像診断によって判断できるものですが、神経学的検査、理学的検査、臨床検査などによって判断されるものでも他覚的所見として認められるものもあります。

後遺障害について等級認定が受けられるためには、原則として他覚症状が認められる必要があります。画像所見が見られなくとも他覚症状が肯定される場合がありますので、自覚症状があればしっかりと医師に訴えることが重要です。

 

 

12級、14級、非該当別の等級認定のポイント

12級は、「局部に頑固な神経症状を残るもの」=「神経系統の障害の存在が医学的に証明できるもの」=「事故により身体の異常が生じ,医学的見地から,その異常により現在の障害が発生しているということが他覚的所見をもとに判断できること」

14級は,「局部に頑固な神経症状を残すもの」=「障害の存在が医学的に説明可能なもの」=「現在存在する症状が事故により身体に生じた異常によって発生していると説明可能なもの」=「被害者に存在する異常所見と残存している症状とが整合していること」とされています。

被害者の訴え(自覚症状)のみでは,被害者の身体の異常との整合性がないとして等級非該当とされてしまうケースが多いようです。

12級以上に認定されやすい典型的パターンは、➀レントゲン画像から神経圧迫の存在が考えられ、かつ➁圧迫されている神経の支配領域に知覚障害などの神経学的異常所見が確認される,というものです。

しかし、➀はあるものの、➁に関して、「神経学的異常がない」、「画像所見上圧迫されていることが疑われる神経の支配領域と異なる領域に神経学的異常が現れている」、「画像所見上圧迫されていることが疑われる神経の支配領域に異常は現れているが異なる領域にも神経学的異常がある」、などの場合には神経障害が他覚的に証明されたとは言い難く、このような場合、他の所見などから神経障害の存在を確認できないと14級評価にとどまりやすい傾向にあります。

また、レントゲン画像上に神経圧迫などをうかがわせる所見とはいえないまでも正常とはいえない所見がある場合、神経圧迫などの症状の発生を説明するものではないにしても、脊椎周辺部の変性が生じているということから症状が出やすいという評価をして14級認定がなされる可能性があります。

 

保険会社のむち打ち症の取扱い

むち打ち症の症状は、衝撃の程度が軽い場合には、だんだんよくなり、普通2~3ヶ月程度、長くても1年程度で治ると考えられていますが、一部には1年以上の長期に亘り通院が必要な場合もあります。

このような長期の通院の場合、被害者の心理的要因が影響していることもありますので、事故との因果関係を否定されるケースもあります。保険会社の取扱いを見ますと、被害者の方は、まだむち打ち症の自覚症状が残っているため、通院を継続したいと思っても、事故後3ヶ月過ぎとか6ヶ月頃になりますと、保険会社から一方的に通院の打ち切りを、被害者に通告してくることがあります。

被害者の方が、これを無視して通院を継続されると、治療費の支払いを打ち切ってしまうことがあります。この場合、被害者の方は主治医とよく相談のうえ、むち打ち症がいまだ治っておらず、医師がまだ通院の必要性を考えていることを、診断書等で明らかにしてもらい、治療の必要性を、保険会社に認めてもらう必要があります。

むち打ち症は、もともと説明・証明をすることが困難なけがであるといえます。むち打ち症で後遺障害に認定されるのはかなり難しい面もありますが、後遺障害に認定されなくても慰謝料として加害者に請求が可能です。

事故は、被害者の方のせいではないかもしれませんが、受傷してしまった以上、責任をもって治療に臨み、その姿勢が医者、保険会社に伝わり後遺症認定を受けられるかもしれません。