後遺障害14級の認定をとるための条件と慰謝料の相場
後遺障害等級で最も低い等級が14級になります。障害の度合いは最も軽い症状ですが、14級でも後遺障害等級認定は取りにくいのが現状です。
ここでは、後遺障害14級の認定条件や、慰謝料基準額等を、ご説明します。
目次
後遺障害等級14級の認定条件
1.1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
2.3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3.1耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4.上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5.下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
6.一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの
7.一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8.一足の第3の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
9.局部に神経症状を残すもの
症状の解説
1.1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
まぶたの一部に欠損を残すものとは、まぶたを閉じた時に角膜を完全に覆うことができるが、白目の一部が露出している程度のものをいいます。
まつげはげを残すものとは,まつ毛の1/2以上にわたってまつげのはげを残すものをいいます。
2.3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
歯科補綴(しかほてつ)を加えたものとは、3本以上の歯を失ったり、又は著しく欠損した歯牙に対する補てつをいいます。
3.1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったものとは、1耳の平均純音聴力レベルが40dB以上70dBという基準になっています。
4.上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
5.下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
上肢の露出面とは、手の指までを含む肘関節以下の部分をいい、下肢とは足の付け根からつま先までの部分、手のひらの大きさとは、被害者自身の指を含まない手のひらの大きさで判断されます。
6.一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失つたもの
7.一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
右手か左手か、利き手かどうかによる区別はありませんが、失った場所や範囲によっては等級が上がる可能性があるので注意が必要です。また、片方の手の親指以外の指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなった場合は14級7号が認定されます。
遠位指節間関節とは第一関節のことで、ここの曲げ伸ばしができない状態をいいます。なお、指の本数の規定はありません。
8.一足の第3の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
片方の足の指で、中指、薬指、小指のうち1本もしくは2本の用を廃した場合、この等級での用を廃したとは、中節骨もしくは基節骨を切断したもの、遠位指節関節もしくは近位指節関節において離断したもの、中足指節関節または近位指節関節の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下になった場合が該当します。
9.局部に神経症状を残すもの
典型的な症状としては、いわゆる「むち打ち」です。
むち打ち症は本人に痛みや麻痺、しびれなどの自覚症状があるものの、医学的に証明ができないケースが多く見られ、14級9号と12級13号とが適用されますが、12級13号では、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と規定されていることに注意が必要です。
神経症状が「頑固なもの」という言葉が入っているかどうかの違いで等級が12級から14級に変わってくるため、一般の方にはわかりにくい部分があるのです。
単純に言うと、12級は症状が医学的に証明される場合に認定され、14級は症状が医学的に証明はできないが、説明できる場合に認定されます。
具体的には、レントゲンやCTなどの画像診断では異常がなく、医学的には証明できなくても、神経学的検査の異常所見や通院状況などにより、神経症状を医学的に説明できる場合、14級9号に該当するということになります。
後遺障害14級の後遺症慰謝料
後遺障害は、入院、通院の慰謝料の他、後遺障害慰謝料の請求することができます。後遺障害等級14級が認定された場合の慰謝料については、2種類の慰謝料があります。
1.入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料(傷害慰謝料)とは、交通事故によって傷害を受け、症状固定時までの入院・通院をすることになったことそのこと自体に対する損害賠償に対し支払われる金銭です。
入通院慰謝料については、入通院期間を基礎として別表1を使用し、傷害の程度などにより増額、むち打ち症で他覚症状がない場合は、別表2を使用します。
★交通事故の損害賠償と解決 P97
別表1
別表2
2.後遺障害慰謝料
症状固定時以降将来にわたって残存する後遺障害を負ったことによる精神的損害に対して支払われる金銭です。
別表1 後遺障害の慰謝料についての自賠責・弁護士会の各基準
級 | 第1級 | 第2級 |
---|---|---|
慰謝料 | 1,600万円 | 1,163万円 |
別表2 自動車損害賠償保障法施行令(介護を要する後遺障害)に該当する場合
等級 | 自賠責基準 | 東京弁護士会基準 (赤い本) |
---|---|---|
1級 | 1100万円 | 2,800万円 |
2級 | 958万円 | 2,370万円 |
3級 | 829万円 | 1,990万円 |
4級 | 712万円 | 1,670万円 |
5級 | 599万円 | 1,400万円 |
6級 | 498万円 | 1,180万円 |
7級 | 409万円 | 1,000万円 |
8級 | 324万円 | 830万円 |
9級 | 245万円 | 690万円 |
10級 | 187万円 | 550万円 |
11級 | 135万円 | 420万円 |
12級 | 93万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
自賠責基準と裁判所基準では、3.5倍ぐらいの慰謝料に差があります。
後遺障害等級14級が認定された場合の逸失利益
逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって失われた利益のことで、労働能力の低下によって得られる収入が減ることからこれを補償するために支払われます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数=逸失利益
自覚症状がない後遺障害の場合は
〈むち打ち〉
むち打ち症の原因は、主に自動車の追突、衝突、急停車等によって首がむちのようにしなったためにおこる骨折や脱臼を伴わない頭頸部症状を訴えているものをいいます。むち打ち症は、正式な傷病名ではなく、医師による診断名は、「頸推捻挫」「頸部捻挫」「頸部挫傷」外傷性頸部症候群」などと呼ばれます。
むち打ちの損傷には、いろいろな状態があります。ひとまとめに述べることはできませんが通常次の4型で分類することができます。
○頸推捻挫型
頸推の周りの筋肉や靭帯、軟部組織の過伸長や部分的断裂で最も多くみられ、首の後ろや肩の痛みは、首を伸ばすと強くなります、首や肩の動きが制限されることもあります。むち打ち症の70~80%を占めているとされています。1ヶ月半~3ヶ月以内に治癒することが一般的です。首の周辺の痛みや違和感などの症状が出ます。
○神経根症型
脊髄から抹消神経である神経根が枝分かれをし、それが、肩を通じて指先まで神経が届いています。交通事故の場合、頸推の過屈曲による頸神経の損傷、歪みが出ると神経が圧迫され症状がでます。首の痛み、腕の痛みやしびれ、だるさ、後頭部の痛み、顔面痛、筋力低下などの症状が出ます。咳やくしゃみをしたり、首を横に曲げたり、回したときに強まります。後遺障害と認定されるむち打ち症は、この型が多いです。
○バレ・リュー症候群(交感神経損傷型)
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、交感神経が頸椎の前側の左右両側面を走っており、頸椎から伸びている神経根につながり、互いに連絡しあっています。事故により神経根に障害がおきたため、交感神経まで影響を受けたり、頚部に出血、浮腫が発生、直接交感神経を圧迫し、交感神経は、顔や上肢に流れる動脈の拡張・収縮の役割を担当していますので、交感神経がおかしくなれば、血行障害がおきてしまいます。めまい、頭痛、耳鳴り、目のかすみ、吐き気、倦怠感、などの症状が現れると考えられます。
○脊髄症状型
頸椎捻挫の衝撃で、頸椎の脊柱管を通る脊髄が傷ついて、下肢に伸びている神経が損傷され、下肢のしびれ、知覚異常がおこり、運動障害、知覚障害、歩行障害、腱反射の異常、排尿障害、排便障害等が現れるようになります。
○脳髄液減少症型
くも膜に裂け目なりができて、脳髄液が減少してしまうことです。症状はきわめて多彩で、起立性頭痛、全身倦怠感、めまい、吐き気、疼痛、脳神経症状、自立神経症状、内分泌異常、免疫異常、睡眠障害等があります。これらの症状には特徴がみられ、気圧の変化で症状が変化します。
※脳脊髄液とは、側脳室、第3脳室、第4脳室の脈絡叢という血管から作られ、くも膜下腔を循環していて、神経に栄養を与えたり脳や脊髄を衝撃から守る役割をしています。
〈高次脳機能障害〉
高次脳機能障害とは、交通事故などによって脳に損傷を負ってしまったことで引き起こされる神経障害(記憶障害・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害)および人格変化などを生じる場合をいいます。高次脳機能障害が残ってしまっても、外見的には事故によるけがは治癒しているかのように見えるため、後遺障害が残ってしまったことに対する理解が得られにくく、対人関係に問題があったり、生活への適応が難しくなって、社会に復帰するのが困難であるという特徴があります。
高次脳機能障害はまだ世間的な認知も低く、そのため、リハビリ施設や生活支援に関する法律も整っていないのが現状と言えます。交通事故の後遺障害では、14級でも軽度の高次脳機能障害があることを認めています。
交通事故後に被害者が感情的になりやすくなった、忘れっぽくなったと感じたら、出来る限り早く病院で画像診断を行ってもらいましょう。高次脳機能障害は自覚症状がないため、周りのひとたちの「違和感」も、早期発見のカギです。
また、自賠責損害調査事務所では、以下の5つのうち1つでも当てはまるものがあれば、高次脳機能障害の審査対応を行うとしています。
1.初診時に頭部外傷の診断があったこと
2.診断書に高次脳機能障害を示す「典型的な症状の記載」があること。知能検査や記憶検査などの神経心理学的検査で、明らかな異常が見られること
3.頭部外傷後、6時間以上の重たい意識障害、もしくは1周間以上、軽度の意識障害が継続していたこと
4.頭部画像上、初診時の脳外傷は明らかで、少なくとも3ヶ月位内に脳室拡大や脳萎縮が確認されたこと
5.診断書に「高次脳機能障害」、「脳挫傷」、「びまん性軸索損害」などの記載があること
この5つの条件のうち、1つでも当てはまれば、「高次脳機能障害の可能性がある」として、後遺障害等級の審査対象となります。
後遺障害14級認定獲得のポイント
ポイント1:因果関係及び受傷状況
まず因果関係について、交通事故による傷害であること、傷害を受ける程度の事故であったこと、傷害が原因の後遺障害であることを証明する必要があります。交通事故による傷害であるかどうかは、診断書に後遺障害の原因である傷病名が記載されているかによって判断されます。そのためにも、むち打ちに詳しい専門の病院で診断を受けましょう。
ポイント2:適切な頻度で病院へ通院
具体的な通院・入院日数が提示されているわけではありませんが、受傷してからの期間にあわせて、適切な頻度で通院をする必要があります。被害者の方の通院回数が多いほど、症状の深刻さが見えるとの判断から、認定を受けられる可能性が高くなる傾向があります。
ポイント3:症状の一貫性・永続性
受傷直後から症状固定まで、症状が一貫・連続性があることが必要です。むち打ちなどの神経症状は事故直後の自覚症状が一番強く感じ、治療を経て症状が緩和されていくにが一般的です。事故後、一定の時間経過後も治癒に至らず、症状が緩和されていなければ、事故との因果関係が認められ後遺障害認定に至るのが、自賠責調査事務所の基本的な流れになります。カルテ等に記載のないものは症状がないものとみなされてしまいますので、カルテに記載してもらうことが大切です。医者に対し症状の変化を正確に伝えることが大切です。
ポイント4:他覚的所見の有無
他覚所見とは、医師など患者以外の人が客観的に捉えることのできる症状のことです。反対に患者本人が感じる症状を自覚症状といいます。典型的にはレントゲン・MRIなどの画像診断によって判断できるものですが、神経学的検査、理学的検査、臨床検査などによって判断されるものでも他覚的所見として認められるものもあります。後遺障害について等級認定が受けられるためには、原則として他覚症状が認められる必要があります。画像所見が見られなくとも他覚症状が肯定される場合がありますので、自覚症状があればしっかりと医師に訴えることが重要です。
この条件を満たし、診断書、資料を添付し、後遺障害だと証明できるものがあれば、後遺障害14級認定をもらうことが可能です。
14級さえ認定はかなり難しいと言われる後遺障害等級認定ですが、正確な診断と、証拠となる書類があれば、むち打ち程度であっても14級の等級認定は受けることができることをご理解頂けたと思います。