交通事故にあった際の労働能力喪失率の算出方法

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交通事故によりけがを負った場合、そのけがの程度によって完治しなということもあります。

いわゆる後遺障害が残ってしまうことがあります。
基本的に一生治癒しないことですから、被害者の方は、一生涯、後遺症に悩まされることなり、完治可能な事故に比べて、一生涯の苦痛は、計り知れないものがあります。
よって、後遺障害事故の場合、通常の事故と異なり、けがをしたため、仕事を休んだため、得なかった賃金や収入(休業損害)だけではなく、将来の逸失利益の損害賠償請求が可能です。

 

後遺障害による逸失利益とは、何でしょうか?

交通事故によりけがをし治療を受け、症状が固定したものの後遺障害が残った場合、これまでどおりの仕事ができなくなり、収入が減少する場合があります。
症状固定日までは休業損害として、収入の補填を受け取る事ができますが、将来の得られるはずであった収入が、後遺障害によって得られなくなった収入相当額の喪失は、賠償はしてもらえないのでしょうか。

症状固定後の減収の見込み額は、事故に遭わなければ、本来は被害者が得ることができたはずであり、加害者が賠償責任を負う不法行為による損害賠償(民法709条)に含まれると解釈されます。本来得ることができたにも拘らず、後遺障害によって得られなくなった収入相当額は、「後遺障害による逸失利益」といって、損害賠償の対象とされています。

 

どの後遺障害等級に認定されているのかが重要なポイント

後遺障害による逸失利益は、具体的には、後遺障害の部位・程度、被害者の性別・年齢・職業、事故前後の就労状況、減収の程度、将来の昇進・転職・失業など不利益の可能性、日常生活上の不便等を総合的な判断して決められまので、どの後遺障害等級に認定されているのかが重要なポイントになります。

 

労働能力喪失率とは、何でしょうか?

後遺障害逸失利益を算出するためには、その後遺障害によって、どの程度の割合で労働能力が失われてしまったのかということを数字によって算出しておく必要があります。この割合のことを労働能力喪失率といいます。

 

後遺障害による逸失利益の算出方法は、どのように算出する?

後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働喪失期間に対応するライプニッツ係数

※労働能力喪失率とは、後遺障害の残存よって、どの程度労働能力が失われたのかを根拠に数値化したものをいいます。交通事故前の後遺障害のない状態を100%として、後遺障害によって、労働能力が何%労働能力が低下したかということを割合化したものです。労働能力喪失率は、労働能力喪失率表によることが一般的な扱いになっています。

後遺障害の等級に応じて1級100%~14級5%まで基準が定められていますが、労働能力喪失率は、医学的、科学的な根拠はありません。後遺障害の等級にそれぞれに該当する労働喪失率は、労災の傷害補償日数を10で割ったものにすぎません。たとえば労災では、10級の場合には平均賃金の270日分が保証されます。自賠責での10等級の労働喪失率は27%です。12旧では、労災で140日分なので自賠責では、14%となっています。
労働能力喪失は、あくまでも目安としての基準になります。

たとえば、年収450万円の40歳の会社員Aさんの場合

交通事故で、脊柱に著しい変形又は通勤障害を残すもの場合、後遺障害別等級表によれば、第6級5号の後遺障害と認定されます。就労可能年数が27年、ライプニッツ係数が14.643とされています。後遺障害が重い例ですので就労可能年数の27年分が、そのまま労働能力喪失期間として認められます。さらに労働能力喪失率により、第6級を見ると、労働能力喪失率が67/100とされており、Aさんの労働能力が67%喪失して、今後、この分の収入が減るであろうことを意味しています。

Aさんの逸失利益を計算すると、450万円×67/100×14.643=4,414万8,645円

自賠責保険では、後遺障害第4級の場合、逸失利益と後遺障害慰謝料分と合わせても、1,889万円が上限ですのでそれだけしか支払われません。残りに関しては、任意保険での支払いになるか、加害者側の負担になります。

※労働能力喪失期間は、四肢切断や下肢短縮のような気質障害の場合には、原則、就労可能年数まで喪失したとされますが、比較的軽い機能障害や神経障害については、喪失期間が短縮される場合が多いようです。むちうち症の場合には、後遺障害の認定をされる事例は極めて稀です。

また仮に後遺障害別等級12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)であったも、労働喪失期間は3年ないし5年程度、後遺障害別等級14級9号(局部に神経症状を残すもの)の場合には、労働喪失期間は2年ないし3年程度と認定される裁判例が多いようです。

労働能力喪失期間は、同程度の後遺障害等級であっても、被害者の年齢、職業、機能の回復の見込み等の状況によっても異なりますし、喪失期間の年数によって、逸失利益の損害額に大きな差がでてきますので、示談をする前に交通事故の損害賠償に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。

 

 

別表1 労働能力喪失率表 自動車損害賠償保障法施行令別表第2の場合 第6級

障害等級労働能力喪失率
第1級100%
第2級100%
第3級100%
第4級92%
第5級79%
第6級67%
第7級56%
第8級45%
第9級35%
第10級27%
第11級20%
第12級14%
第13級9%
第14級5%

※ライプ二ッツ係数とは、将来、当然得られるはずであった利益(得べかりし利益)の喪失を、交通事故発生時に一時にまとめて支払いを受けることになるため、年5%の中間利息を排除して、現時点の価値に計算するための方式として、複利計算により中間利息を排除する方法

 

ライプニッツ係数表 18歳以上の者に適用する表 40歳 14.643

年齢就労可能年数新ホフマン係数ライプニッツ係数
18才49年24.41618.169
19才48年24.12618.077
20才47年23.83217.981
21才46年23.53417.88
22才45年23.23117.774
23才44年22.92317.663
24才43年22.61117.546
25才42年22.29317.423
26才41年21.9717.294
27才40年21.64317.159
28才39年21.30917.017
29才38年20.9716.868
30才37年20.62516.711
31才36年20.27516.547
32才35年19.91716.374
33才34年19.55416.193
34才33年19.18316.003
35才32年18.80615.803
36才31年18.42115.593
37才30年18.02915.372
38才29年17.62915.141
39才28年17.22114.898
40才27年16.80414.643
41才26年16.37914.375
42才25年15.94414.094
43才24年15.513.799
44才23年15.04513.489
45才22年14.5813.163
46才21年14.10412.821
47才20年13.61612.462
48才19年13.11612.085
49才18年12.60311.69
50才17年12.07711.274
51才16年11.53610.838
52才15年10.98110.38
53才14年10.4099.899
54才13年9.8219.394
55才12年9.2158.863
56才12年9.2158.863
57才11年8.598.306
58才11年8.598.306
59才11年8.598.306
60才10年7.9457.722
61才10年7.9457.722
62才9年7.2787.108
63才9年7.2787.108
64才9年7.2787.108
65才8年6.5896.463
66才8年6.5896.463
67才8年6.5896.463
68才7年5.8745.786
69才7年5.8745.786
70才6年5.1345.076
71才6年5.1345.076
72才6年5.1345.076
73才6年5.1345.076
74才5年4.3644.329
75才5年4.3644.329
76才5年4.3644.329
77才4年3.5643.546
78才4年3.5643.546
79才4年3.5643.546
80才4年3.5643.546
81才4年3.5643.546
82才3年2.7312.723
83才3年2.7312.723
84才3年2.7312.723
85才3年2.7312.723
86才3年2.7312.723
87才3年2.7312.723
88才2年1.8611.859
89才2年1.8611.859
90才2年1.8611.859
91才2年1.8611.859
92才2年1.8611.859
93才2年1.8611.859
94才2年1.8611.859
95才2年1.8611.859
96才2年1.8611.859
97才~1年0.9520.952

18才以上の者に適用する表 年齢別就労可能年数および新ホフマン係数・ライプニッツ係数 (注) 1.18才未満の有職者および18才以上の者の場合の就労可能年数については (1) 56才未満の者は、67才から被害者の年令を控除した年数とした。 (2) 56才以上の者は、平均余命年数の2分の1とし、端数は切上げた。 2.幼児および18才未満の学生、無職者の場合の就労可能年数および新ホフマン係数またはライプニッツ係数は下記(例)に準じて算出する。 (例)3才の幼児、新ホフマン係数の場合 (1) 就労の終期(67才)までの年数(67-3=)64年に対応する係数 28.325 (2) 就労の始期(18才)までの年数(18-3=)15年に対応する係数 10.981 (3) 就労可能年数(64-15=)49年 (4) 適用する係数(28.325-10.981=)17.344

 

労働能力喪失率の判断における問題点

表の喪失率は、労災補償の給付金から算出をされたものです。自賠責保険も労災の障害認定基準に準拠するとされていることから、この表を使って逸失利益の計算をすることが決まっています。自賠責保険が個々のケースにあった損害賠償が目的ではなく、最低限の保証を目的としているからです。これはあくまでも自賠責保険の計算であり、一般の損害賠償請求の計算方法が、これに縛られるわけではありません。

本来、労働能力喪失率は、裁判官によって判断のばらつきが生じ、不公平感が生じないように客観的な基準によって判断することにより、逆に不公平感が生じる場合があります。裁判所の判例においても、個々具体的なケースにおいては、被害者が従事していた職種等により、表に定めた労働能力喪失率が、増減する場合もあり、職種を含む被害者の特性を何ら考慮することなく、専ら労働能力喪失表に則って損害を算定することは、被害者に生じた損害のてん補を目的とする損害賠償制度の趣旨、目的に反することになるとして、判示されています。

そのため、労働能力喪失率は、本来、それぞれ被害者ごとに、現在及び将来の職業と障害の内容・程度を考慮して、個別に判断されるべきものです。そのため、裁判の場合、裁判官は自賠責保険支払基準に拘束されず、個別具体的に判断をして労働能力喪失率を認定することができると解されていまので、裁判の場合、仮に自賠責の後遺障害等級による労働能力喪失率よりも大きい割合の労働能力喪失率が認められることもありますが、反対の場合もあります。

訴訟においての、自賠責保険における後遺障害等級の労働能力喪失率が非常に重視をされる傾向にあります。訴訟においても、これに従った認定または若干の修正が加えられた認定がされることが、大半です。後遺障害逸失利益を請求する場合、訴訟予定であったとしても、自賠責保険の後遺障害等級認定が必要になります。軽い後遺障害でも請求の方法次第では、等級認定され場合もあります。初めから「認定されるのは無理」とあきらめず、「やるべきことはやる」という被害者の姿勢を示す意味でも、等級認定は行ってください。