後遺障害等級:第11級(1号~10号)認定の基準

後遺障害等級:第11級(1号~10号)とは?

交通事故の後遺障害等級11級と認定される症状の半分は眼や耳に関することですが、脊柱、手足の傷害による変形障害、胸腹部臓器、歯、指等の障害など、全部で10つに分類されており、日常生活を送る上で支障をおよぼすような訳ではありませんが、労働能力喪失率は20%であり、上位の等級から比べると、軽症の部類に入りますが今後回復の見込みがないことに変わりはありません。
自賠責保険の後遺障害等級別の件数構成比によりますと、後遺障害等級認定を受けた人の内、6.72%が11級の認定を受けています(平成25年度)

11級の認定を受けることによって得られる慰謝料の相場は,420万円です。

後遺障害等級認定を受けることにより、自賠責保険の保障対象は、逸失利益と後遺障害慰謝料を損害賠償として請求することができます。

後遺障害等級11級の10の認定条件とは

後遺障害第11級は、障害を負った部位によって1号から10号まで分類されています。

1号:両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2号:両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3号:1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
4号:10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号:両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
6号:1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の音声を解することができない程度になったもの
7号:脊柱に変形を残すもの
8号:1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの
9号:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
10号:胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

 

目次

1~10号の傷害部位と認定基準

 1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの

「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは,調節力が通常の場合の1/2以下になってしまった場合をいいます。
両目ともに異常が発生している場合には,年齢別の調整力を示す調整力値と比較して,調整力の低下を判断します。
☆年齢別の調整力値
15歳~19歳→9.7
20歳~24歳→9.0
25歳~29歳→7.6
30歳~34歳→6.3
35歳~39歳→5.3
40歳~44歳→4.4
45歳~49歳→3.1
50歳~54歳→2.2
55歳~59歳→1.5
60歳~64歳→1.35
65歳~  →1.3
※異常のない目の調節力が,1.5Dを下回っている場合には,実質的に調節機能を失っているので,等級認定の対象とはなりません。
したがって,両目に異常がある場合に,その方が55歳以上(そもそも1.5Dなので)であれば等級認定の対象になりません。

目の調節力は,水晶体の機能によって決まります。水晶体は,近くの物を見るときに膨張し,遠くの物を見るときに縮小して,網膜に像を映します。目は,水晶体によってピントを合わせるのです。
この水晶体の亜脱臼・脱臼等の異常が発生すると,眼のピントを合わせることができなくなり,調節力が落ちるということになります。

目の調節力の検査方法としては,アコポドレコーダーという調節機能測定装置を使用します。両目に異常が認められる場合には,この装置を使用して3回以上の検査を行ってその結果がほとんど一定であり,上記の調整力値の1/2以下になっている場合に11級1号が認定されるのです。

「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは,眼球の注視野の広さが1/2以下になってしまった場合をいいます。
注視野とは,頭を固定した状態で,眼球の運動のみで見ることができる範囲のことをいいます。
片方の目で見た場合50度で,両方の目で見た場合は45度です。

眼球の運動は,上下,内外,上下斜めの3対の外眼筋の一定の緊張によって維持され,眼球を正常の位置に保っています。
したがって,外眼筋の一部が麻痺すると,この緊張が壊れてしまい,反対の方向に偏位してしまいます。

眼球の運動障害の検査は,視野計を使用して注視野を測定することにより行います。

この外眼筋の麻痺によって,眼球の注視野の広さが両目とも1/2以下になると,11級1号に該当することになるのです。

眼球の運動障害として等級の認定がされなかったとしても,複視があれば,複視として等級が認定されることがあります。

 2号 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの

「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは,まぶたを開いた時に瞳孔領を完全に覆うもの又はまぶたを閉じた時に角膜を完全に覆うことができない場合をいいます。

まぶたを開いた時に瞳孔が覆われていることを眼瞼下垂,まぶたを閉じたときに角膜を完全に多くことができないものを兎眼と呼びます。

まぶたの運動障害は,顔や頭を強打することによって,視神経や外眼筋が損傷されたときに発症します。
傷病名としては,ホルネル症候群,動眼神経麻痺,眼瞼外傷による上眼瞼挙筋損傷,外転神経麻痺等があります。

片方のまぶたに著しい障害を残す場合には,後遺障害12級2号となります。

 3号 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

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「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは,まぶたを閉じた時に,角膜を覆うことができない場合をいいます。

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欠損したまぶたは,左目でも右目でも同じです。

 

4号 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

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「歯科補綴(しかほてつ)を加えたもの」とは,現実に喪失又は著しく欠損した歯に補綴をした場合をいいます。
補綴とは,対象の歯を削って,人工のもので補うことをいいます。

「著しく欠損」とは,歯冠部,つまり歯茎から出ていて客観的に見える歯の体積の3/4以上が欠損していることです。

10本以上の歯に障害が残った状態です。本数によって等級が変わります。
14歯以上→10級4号
10歯以上→11級4号
7歯以上 →12級3号
5歯以上 →13級5号
3歯以上 →14級2号

第三大臼歯(親知らず)、乳歯などは、対象外になります。しかし乳歯については、永久歯が生えないという医師の 証明があれば認定の対象となります。

前歯、奥歯といった場所の区別はなく、事故後、歯科医において入れ歯、差し歯、ブリッジ、インプラント等の治療を受け、日常生活に支障が感じなくなったとしても、後遺障害として賠償を求めることは可能です。

 5号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を会することができない程度になったもの

両耳の平均純音聴力レベルが40db以上のものがこれに該当します。

検査の方法
【自覚的な反応を計る検査】
・オージオメーターを使用する純音聴力検査
・スピーチオージオメーターを使用する語音聴力検査
【他覚的な反応を計る検査】
・ABRを使用するABR・聴性脳幹反応
・インピーダンスオージオメトリーを使用するSR・あぶみ骨筋反射

純音聴力検査は,オージオメーターという装置を使用し,気導張力検査と骨導聴力検査の2種類の検査を行います。
気導は,空気中を伝わる音で,骨導は,頭がい骨を伝わる音です。
語音聴力検査は,スピーチオージオメーターを使用し,語音聴取閾値検査と語音弁別検査の2種類を行い,言葉の聞こえ方及び聞き分ける能力を計ります。
ABRは,音の刺激によって脳が示す電気生理学的な反応を読み取ることによって,波形を記録するシステムです。
SRは,インピーダンスオージオメトリーを使用し,音響により耳小骨筋の収縮作用を利用して検査を行います。

後遺障害の等級認定のためには,検査を受ける被害者の方の自覚的な応答による検査のみでは,信頼性が薄い場合があり,このような場合に被害者の方自身が操作できない他覚的な反応を計るABR,SRを行うことになります。

検査は,日を変えて7日間の間隔で,3回行い,純音聴力検査では,2回目と3回目の測定値の平均で後遺障害等級の認定を行います。

 6号 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の音声を解することができない程度になったもの

両耳の聴力が1メートル以上の距離程度になったもの

「1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の音声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力レベルが70dB以上80dB未満もの、又は1耳の平均純音聴力レベルが50dB以上で、明瞭度が最高50%以下です。

もともと耳の遠い方ですと、事故によって聴力が減少したことに気がつかないケースもありますので、等級認定を受けるためには専門医の診断が必要になりますので、耳鼻科の検査をお勧めします。

 

7号 脊柱に変形を残すもの

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「脊柱に変形を残すもの」とは,エックス線写真,CT画像,MRI画像により,脊椎圧迫骨折等を確認することができる場合で,次のいずれかに該当する場合を言います。
・脊椎圧迫骨折等により,2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し,後彎がしょうじているもの(「前方椎体高が著しく減少した」とは,減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が,減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ以上であるものをいう。)
・脊椎圧迫骨折等により,1個以上の椎体の前方椎体高が減少し,後彎が生じるとともに,コブ法によりる側彎度が50度以上になっているもの。(「前方椎体高が減少した」とは,減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が,減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるものをいう。

交通事故により,尻もちをついたりすることによって,椎体に縦方向の圧力がかかることによって,椎体が上下に押しつぶされるのが,圧迫骨折です。

脊柱の圧迫骨折等は、骨折が軽微な場合には、初診時に見落とされてしまう場合がありますので、後々、圧迫骨折等が発見された場合には、交通事故との因果関係をめぐって争いになることがあります。
とくに、レントゲンでは確認できなかった骨折等が、MRI検査を受けることにより発見されるということもありますので、交通事故の被害にあったら、レントゲンでは異常が確認できなくとも、できるだけ早期にMRI検査を受けることをお勧めします。

 

8号 1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの

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「ひとさし指,なか指又はくすり指を失ったもの」とは,近位指節間関節(第2関節)以上を失ったものをいいます。
次の場合がこれに該当します。
・指を中手骨又は基節骨で切断したもの
・近位指節間関節(第2関節)において,基節骨(第2関節の根本よりの骨)と中節骨(第2関節の先端よりの骨)とを離脱したもの

 

9号 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの

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片方の足の親指を含む2本以上の指の用を廃した場合に認定されます。
「足指の用を廃したもの」とは、第一の足指については末節骨(指先から第一関節までの骨)の半分以上、その他の足指については遠位指節間関節以上を失ったもの、または中足指節間関節もしくは近位指節間関節(第一の足指にあっては指節間関節)に著しい運動障害(可動域が1/2以下になったもの)を残すものをいいます。
なお、指を失った足が、右足か左足かの区別はありません。
親指は、非常に重要であり、9号についても機能障害が発生した足指に親指が含まれていることが前提になります。

 

10号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

胸腹部臓器の後遺障害には、①肺などの呼吸器の障害、②心臓などの循環器の障害、③胃腸などの腹部臓器の障害、④泌尿器の障害、⑤生殖器の障害、があります。
内臓障害によって部分的に仕事が規制される場合、認定され、どの程度仕事に支障が出るかにより等級は上下します。
また、後遺障害診断書の内容によって等級が上がったり下がったりするので、診断する医師に後遺障害診断書に記載してもらう必要があります。内臓障害は症状固定後に悪化する場合も少なくありませんので、将来の再発、悪化に備え、医師の診断を受け、検査の結果、病状の経過を記録しておきましょう。

 

後遺障害等級12級の損害賠償額の計算例

45歳の会社員

事故前の年収550万円

後遺障害等級11級に該当したとして仮定した場合の後遺障害に関する損害額(弁護士会基準での計算)

後遺障害等級慰謝料・・・420万円

逸失利益・・・1480万9300円
550万円(基礎収入)×0.20(労働能力喪失率)×13.1630(労働能力喪失期間29年間のライプニッツ係数)=1480万9300円

 

まとめ

上位の等級にに比べ軽度な部類に入るとは思いますが、内臓障害障害などは、医師による後遺障害診断書の内容によって等級が上がったり下がったりするので、診断する医師に後遺障害診断書に記載してもらう必要があり、将来の再発、悪化に備え、医師の診断を受け、検査の結果、病状の経過を記録しておくことをお勧めします。