後遺障害等級:第9級(1号~17号)認定の基準

交通事故の後遺障害等級9級は、視力等、眼に関する項目、耳に関する項目、手指、足指、胸腹部の機能障害、生殖器等、、全部で、17に分類されており、労働能力喪失率も35%になっています。特徴としては、ほぼ、全身の障害が、後遺障害に関する項目に定められており、神経系統の障害など簡単に診断しにくい症状が含まれます。

自賠責保険の後遺障害等級別の件数構成比によりますと、後遺障害等級認定を受けた人の内、3.36%が9級の認定を受けています(平成25年度)

後遺障害等級認定を受けることにより、自賠責保険の保障対象は、逸失利益と後遺障害慰謝料を損害賠償として請求することができます。

後遺障害等級9級の17の認定条件とは

後遺障害第9級は、障害を負った部位によって分類されています。

等級部位障害の程度
9級視力の障害両眼の視力が0.6以下になったもの
1眼の視力が0.06以下になったもの
両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
鼻の障害鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
口の障害咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
耳の障害両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが出来ない程度になったもの
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することが出来ない程度になったもの
1耳の聴力を全く失ったもの
神経系統の機能又は精神の障害神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
胸腹部臓器の障害胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの
上肢の障害1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの
上肢の障害1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
下肢の障害1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの
1足の足指の全部の用を廃したもの
外貌の醜状障害外貌に相当程度の醜状を残すもの
胸腹部臓器の障害生殖器に著しい障害を残すもの

傷害部位と認定基準

両目の視力が0.6以下になったもの
片目の視力が0.06以下になったもの

視力障害に関しての規定になります。両眼の矯正視力(眼鏡、コンタクトレンズをかけた場合)が、0.6以下になったもの、片眼で0.06以下になったものと規定されています。交通事故によって視力が低下したという、因果関係がなければ認定はされず、事故前から、視力が0.6以下であれば認定はされませんので、ご注意ください。

両眼に半盲症か、視野狭窄、或いは視野変状と言われる症状が残ったもの

・半盲症とは
視神経交叉部およびそれより上部の視覚神経伝導路が障害され、注視点を境界として,片眼または両眼の視野の左半部あるいは右半部が欠損する症状をいいます。
半盲には,両眼視野の同側が欠損する同名半盲と,反対側が欠損する異名半盲とがある。前者は右側半盲と左側半盲に分けられ,後者は両耳側半盲と両鼻側半盲に分けられます。

・視野狭窄とは
視野が縁のほうから、あるいは不規則に欠けて狭くなる状態で、、視野全体が狭くなる求心狭窄と視野の一部分が不規則な形で狭くなる不規則狭窄とがあります。

両眼に半盲症、視野狭窄または視野変状を残すもの、
ゴールドマン視野計で、正常視野の 60%以下になったものを視野狭窄と説明します。

・視野変状
広い意味の視野変状は、視野の欠損と暗点が狭い意味での視野変状となります。
暗点とは、視野の中に孤立して点状、斑状に欠損を生じるものです。基準では、生理的視野欠損(盲点)以外の病的欠損を生じたものとされ、また、暗点は絶対暗点を採用し、比較暗点は採用しないとされています。絶対的暗点とは、その部分で視標が全く見えないものを言い、比較暗点とはその部分で、視標がぼんやりと見えるものを言います。

これらの症状は、交通事故の影響で視神経に障害が残ってしまった場合によく見られる症状です。専門医に診断を受けて、しっかり検査をしてもらえば、比較的後遺障害として認定してもらえる可能性が高い後遺症と言えます。

両眼のまぶたに重大な欠損が残ったもの

両眼のまぶたに著しい欠損を残すものとは、まぶたを開いた状態で瞳孔領を完全に覆うもの又は、まぶたを閉じたときに角膜を完全に覆うことができないものをいいます。

鼻を欠損し、その機能に重大な障害が残ったもの

鼻の欠損とは、鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損をいいます。
機能に著しい障害を残すものとは、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失をいい、鼻の欠損は場合によっては、外貌醜状としてとらえることもできますので、外貌醜状の後遺障害等級の認定を受けることができる場合があります。
この場合には、鼻の欠損と、外貌醜状のいずれか高い方の等級が認定されることとなります。

鼻の後遺障害認定でよく起こる問題として、嗅覚脱失・嗅覚減退による後遺障害については、障害が労働能力に及ぼす影響が少ないとして、後遺症逸失利益を否定されることがあります。

ものを噛み砕く機能と、言語を発する機能両方に障害が残ったもの

咀嚼とは、食べ物を噛んで飲み込む機能と、言葉を話す機能に障害が残った場合に認定されます。両方とも口や顎あるいは舌といった部位を使う機能ですので、咀嚼機能に障害が出れば言語機能にも影響が出てくるのはよくあることです。咀嚼機能と、言語機能の両方の機能に問題が残った場合に認定されます。

具体的には、柔らかい食物は食べることはできますが、歯ごたえのある食材などは食べることができない状態です。

言語の機能に障害を残すものとは、4つの子音のうち1つが発音できなくなった状態が該当します。

4つの子音とは、具体的には次の通りです。
・口唇音/ま行音・ぱ行音・ば行音・わ行音、ふ
・歯舌音/な行音・た行音・ら行音・ざ行音・しゅ・じゅ・し
・口蓋音/か行音・が行音・や行音・ひ・にゅ・ぎゅ・ん
・咽頭音/は行音

両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を聞き取ることができない程度になったもの
片耳の聴力が耳に接しなければ大声を聞き取ることができない程度になり、もう片方の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を聞き取ることが困難な程度になったもの
片耳の聴力を完全に失ったもの

1つめは両耳の聴力が、1メートル以上の距離では、普通の声で話される会話が、理解できなくなる程低下すれば認定されます。単純な音が聞き取れるか(純音)、言葉を言葉として聴き取れるか(明瞭度)の2種類の検査を行います。

具体的な症状として、純音聴力のレベルが60dB以上、または、50dB以上で、明瞭度が最高で70%以下です。

2つ目は片方の耳が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の声で話される会話が、理解できなくなるほど低下すれば認定されます。

具体的な症状として、聴力が著しく低下している方の耳が、純音聴力のレベルが80dB以上、他耳の純音聴力のレベルが50dB以上とされています。

3つめは片耳だけ完全に聴力が失われた場合に認定され、具体的な症状として、純音聴力のレベルが90dB以上とされています。90dBとは、ほぼ聞き取ることが不可能な状態でしょう。

神経系統の機能か、もしくは神経に障害を残し、務められる仕事が大きく制限されているもの

高次脳機能障害等の最も軽度な認定基準で、高次脳機能障害、脳の損傷による麻痺、脳の器質的な損傷を伴わない精神障害などで、健常者と同じ程度に仕事は就けるものの、作業効率や持続力等に問題が発生、問題解決機能に障害がある場合に認定されます。

・脳の損傷による麻痺
障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢または下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれていることをいいます。障害を残した一上肢では、文字を書くことに困難を伴うもの、日常生活は概ね独歩できるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で横転しやすく、速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため、杖もしくは、硬性装具なしには、階段を上ることができないもの

・脳の器質的な損傷を伴わない精神障害(非器質性精神障害)
交通事故の後にうつ、不安、フラッシュバック等の精神症状が出てしまい、労働能力が失われた場合です。判断が難しい症状なので、専門医による診断、交通事故により後遺障害になった証明する必要があります。

・外傷性てんかん
薬を内服して、数ヵ月に1回程度発作が起きるようなケースが該当します。

・頭痛・頭重感
頭部に負った傷や血管への圧迫、三叉神経、交感神経の問題などで起こる頭痛によって労働に従事できない場合が該当します。

・その他
めまいや平衡感覚障害、RSDなどの神経性の疼痛などによって労務に支障をきたすケースが該当します。

胸部、腹部の臓器の機能に障害を残し、務められる仕事が大きく制限されているもの

交通事故によって内臓に損傷を受けると、労働能力の喪失に繋がることは稀ではなく、胸腹部臓器とは、呼吸器、心臓、肝臓、膵臓、胃腸などの消化器、泌尿器、ヘルニアなどの障害のために就労可能な職種や、作業等に制限が必要な場合が該当します。

(1)呼吸器
肺の機能低下、動脈血酸素分圧(動脈血に含まれる酸素の圧力)が、60Torrwoを超え70Torr以下、動脈血炭酸ガス分圧(動脈血に含まれる炭酸ガスの圧力)が、37Torr以上43Torr以下になってしまった場合に該当します。詳しい症状については、医師の判断を受けましょう。

(2)心臓
心臓機能低下、強度の身体活動が制限されるもの(例:平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限されるもの)、ペースメーカーの植え込みが必要になってしまった場合が該当します。

(3)消化器
・食道の狭さくによる通過障害を残すもの
・胃の切除により生じる症状
消化吸収障害及びダンピング症候群
消化吸収障害及び胃切除術後逆流性食道炎が認められるもの
・小腸の障害
残存する空腸及び回腸(以下「残存空・回腸」という。)の長さが100cm以下となったもの
・肝臓の障害  肝硬変(ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST・ALTが持続的に低値であるものに限る。)
・すい臓の障害
外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるもの、
・腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニア又は内ヘルニアを残すもの
常時ヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの、又は立位をしたときヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの

(4)泌尿器の障害
・腎臓の障害
腎臓の障害に係る障害等級は、腎臓の亡失の有無及び糸球体濾過値(以下「GFR」という。)による腎機能の低下の程度が、腎臓を失っていない場合は、GFRが、30ml/分を  超え50ml/分以下、一側の腎臓を失った場合は、GFRが50ml/分を超え70ml/分以下となったもの
・尿管、膀胱及び尿道の障害
尿禁制型尿路変向術(禁制型リザボア及び外尿道口形成術を除く。)を行ったもの
蓄尿障害を残し、常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないもの
残尿が100ml以上であるもの

片手の親指又は親指以外の2本の指を失ったもの
片手の親指を含み2本の指の機能、又は親指以外の3本の指の機能を失ったもの

片手のおや指1本、又はおや指を除く2本の指を失った場合に認定されます。

手指を失ったものとは、親指は指節間関節(IP)、その他の手指は近位指節間関節(PIP)以上を失ったものとされ、具体的には次の場合が該当します。
・手指を中手骨、または基節骨で切断したもの
・近位指節間関節(PIP)親指は指節間関節(IP)で其節骨と中節骨とを離断したもの

1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃した場合に認定されます。

「手指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または中手指節間関節もしくは近位指節間関節(母指の場合は指節間関節)に著しい運動障害を残すものとされています。具体的には、次の場合が該当します。

・手指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
・中手指節間関節または近位指節間関節(母指の場合は指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されている場合
・母指については、橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の1/2以下に制限されている場合も、「著しい運動障害を残すもの」として取り扱います。
・手指の末節の指腹部および側部の深部感覚および表在感覚が完全に脱失した場合

なお、1手と定められていますので、障害を負った手が、右手、左手どちらでも、認定等級は、同じです。

片足の親指を含み2本の足の指を失ったもの
片足の全ての指の機能を失ったもの

片足の親指を含む2本の指を失った場合、足指を失ったものとは、具体的には、中足指節関節から失ったものがこれに該当します。

片足の指の用を廃した場合、足指の用を廃したものとは、第1の足指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節以上を失ったもの又は中足指節関節若しくは近位指節間関節(第1の足指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すもの」とされており、具体的には、次の場合がこれに該当します。

・第1の足指の末節骨の長さの1/2以上を失ったもの
・第1の足指以外の足指を中節骨若しくは基節骨を切断したもの又は遠位指節間関節若しくは近位指節間関節において離断したもの
・中足指節関節又は近位指節間関節(第1の足指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されるもの

なお、1足と定められていますので、障害を負った足が、右足、左足どちらでも、認定等級は、同じです。

外貌に、相当程度の醜い痕が残ったもの

外貌(ガイボウ)とは、手と腕(上肢)、脚と足(下肢)以外で日常的に目の触れる部位、つまり頭・顔・首などをいいます。
顔に傷跡が残ってしまった場合、顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものが、これに該当します。

ちなみに、以前は「女子の外貌」というように女性に限定されていましたが、2010年6月の法改正により現在は男性にも上記基準が適用されます。

生殖器に重大な障害を残ったもの

適用される症状として
・男性生殖器の後遺障害として、陰茎の大部分を欠損したもの、勃起障害を残すもの、射精障害を残す場合
・女性生殖器の後遺障害として、膣口狭さくを残すもの、両側の卵管に閉塞若しくは癒着を残すもの、頸管に閉塞を残すもの又は子宮を失った場合です。

後遺障害等級9級の損害賠償額の計算例

30歳の会社員

事故前の年収350万円

後遺障害等級9級に該当したとして仮定した場合の後遺障害に関する損害額(弁護士会基準での計算)

後遺障害等級慰謝料・・・690万円

逸失利益・・・2047万1342円
350万円(基礎収入)×0.35(労働能力喪失率)×16.7113(労働能力喪失期間37年間のライプニッツ係数)=2047万1342円

まとめ

交通事故の後遺障害等級9級は、すべての等級の中でもっとも多くの分類があり、また部位で考えてもほぼ全身の障害があり、神経系統の障害など簡単に診断しにくい症状が含まれます。そのため後遺障害等級の判断が難しいと言えます。
判断が難しいということは、被害者の方が間違った等級を認定されてしまう可能性もあるということです。
9級の後遺障害は、被害者の方にとっては、日常生活において大きな苦痛が生じるものだが、交通事故の後遺障害としては中程度の後遺障害に当たります。
もし、自分の後遺障害等級に不服があるならば、異議申し立てをする必要があります。